医院名:マロニエ矯正歯科クリニック 
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矯正コラム

2022.06.12

抜歯について~1本だけの抜歯~

質問

幼い頃から前歯の突出したガタつきと口を閉じにくく顎に皺が出来てしまうのが悩みでした。
働き始め、いつも行き慣れている歯医者が歯科矯正も行っているという事で矯正を決意しました。

元々、下の歯左2番目が1本生えていません。
歯科医の話では、親知らず4本の抜歯だけで十分。もう少し口元を引っ込ませたかったら上の歯左4番目を抜歯する事も出来るので、貴女自身で決めてくださいと言われました。

矯正を始めて5ヶ月目に差し掛かり、今月から下の歯にも矯正器具を着けました。悩んでいた上の歯の歯並びが綺麗になってきましたが、上の歯と下の歯との隙間が5mm程あり口が閉じにくく顎の皺の悩みは改善されていません。
上の歯左4番目の抜歯は任意という事ですが、抜歯してもしなくても、記載した悩みは徐々に矯正の過程で治っていくのでしょうか?

回答

質問者様の状態は、上顎前突・叢生・先天欠如に分類されます。
そして、親知らず抜歯は扱いは非抜歯矯正です。
出っ歯ででこぼこで、先天欠如もあるのに非抜歯で治すのは難しいです。
仮に上下の前歯が接触したとしても、口元はあまり引っ込まないでしょう。
では、左上1本抜歯が正解かというと、それも間違いだと思います。

かかりつけ歯科医院で矯正をおこなっているのは、矯正歯科医師ですか?
それとも、矯正をかじっただけの一般歯科医師ですか?
矯正治療に精通している人間でなければ、質問者様を治すのは難しいでしょうし、
矯正治療を理解しているのであれば、今のプランにはならないでしょう。
治療中断や転院・セカンドオピニオンを含め、考えた方がいいかもしれません。

1本歯が生えていないというのは、埋まっているのではなく、最初から無いのでしょう。
上が14本、下が13本であり、パズルのピースが欠けた状態ですから、
何も考えずに治しても、うまく咬み合うはずがありません。
質問者様は「前歯3本」という意味で、「スリー・インサイザー」という状態です。
この状態から治療するとなると、

①左下以外の3本を抜歯する
②左下2に1本補綴する
③何とか今の本数で咬ませる(うまくいけば)
④上の歯2本抜歯する(条件がそろえば)

のどれかになります。左上1本抜歯はやや悪手と言えるでしょう。

①左下以外の3本を抜歯する
歯の本数を上下左右で揃えるべき、というのが基本的な考え方です。
左下はすでに無いので、右上4・左上4・右下4を抜歯するのが一般的です。
顎にしわが寄る(オトガイ筋の緊張)があり、口が閉じしくくなっているわけで、
なかなかの出っ歯なわけですから、口元を引っ込めるためにも上下で抜歯した方が良いです。
口元を下げたくない、抜歯本数を減らしたいのであれば、他の方法となります。

②左下2に1本補綴する
補綴というのは、人工物で歯を補うことを言います。
歯が少ない分、増やして上下左右の本数を合わせるということですね。
下の歯に側切歯1本分のスペースを作り、矯正後に歯を入れます。
ただ、ブリッジやインプラントなどは費用もかかりますし、一生もちません。
また、下の歯にスペースを作る分、下の前歯を前に出すことになり、もっと口が閉じにくくなります。
よほど口元が引っ込んでいて、前歯を下げたくないとき以外は選択しないので、
1本増やすというのは質問者様には合わないでしょう。

③何とか今の本数で咬ませる(うまくいけば)

今やろうとしているのはこの方法ですが、普通にやると治りません。
奥歯の位置がⅠ級という正常な位置関係の場合、上下左右の本数を合わせる必要があります。
上下の本数が違う場合、奥歯の位置関係をⅢ級(下の奥歯が前に来ている状態)にする必要があります。
また、上の歯を全体的にディスキング(歯の側面部を削る)し、スペースを作って後退させます。
奥歯をⅢ級にする、上の歯をディスキングする、この二つをやって初めて前歯が当たります。

奥歯をⅢ級にするためには、上の歯の遠心移動(奥に移動させる)が必要になります。
遠心移動のためには親知らず抜歯が必須ですが、さらに遠心移動を行うメカニクスが必要になります。
ただ顎間ゴムを使うだけでは遠心移動は出来ません。ディスキングだけでも足りません。
「非抜歯Ⅲ級スリーインサイザー仕上げ」に持っていくための作戦について説明はありましたか?
おそらく無策なのではないでしょうか。ただキレイな出っ歯になっただけで、前歯は当たらないままでしょう。
また、ややⅢ級君の咬み合わせは、1歯対2歯のジグザグみっちりした咬み合わせにはなりません。
さらに、前歯もたいして引っ込まないので、顎のしわも無くならないでしょう。
今やっている方法は、100点を絶対に取れない妥協的な方法であり、たまにしか選択しません。
質問者様が前歯を下げたいと言っている段階で、選ぶべき方針ではないのです。

④上の歯2本抜歯する(条件がそろえば)

上下の本数を合わせるべきと言いましたが、上12本下13本であれば割とうまく咬みます。
上の両側4番を抜歯し、その分前歯を後退させますが、奥歯の位置はⅡ級気味で仕上げます。
Ⅱ級というのは、上の奥歯がⅠ級よりも前に来ている出っ歯の人特有の咬み合わせです。
「前歯が5mm前後にずれている」という点で、質問者様の臼歯関係はⅡ級なのではないかと思います。
①②の方法は、臼歯関係がⅠ級の場合であり、Ⅰ級でないならⅠ級にする必要があるということ。
「Ⅱ級スリーインサイザー仕上げ」は、奥歯をⅡ級のまま咬ませていきます。
Ⅱ級の臼歯関係を動かすことなく、前歯を下げられますし、治療期間も短く済みます。
適応症とバチッとハマれば、効率的な治療方法と言えるでしょう。
ただ、③同様に、1歯対2歯ではないし、犬歯誘導も作りにくいでの、仕上がりは妥協的と言えます。

質問者様におすすめなのは、①です。3本抜歯が結果も良いでしょう。
奥歯の位置関係や、口元の出具合によっては、④もありかなといった感じです。
では、左上4抜歯がなぜ良くないのかについて説明しましょう。

まず、下の歯の正中は顔の中心線よりも左側にずれていませんか?
左下の歯が無いので、左側に真ん中がずれているはずです。
スリー・インサイザー仕上げは、あえて上下の歯の正中がすれている状態でフィニッシュしますが、
上下の本数が一致しているならば、上下の歯の正中は一致することになります。
つまり、左上の歯だけ抜歯すると、上の歯の正中が左側にずれていきます。
下の正中のずれは、目立たないので気になりませんが、上の正中は気になるはずです。
ずれていなかった人がずれて仕上がると、違和感がかなり強くなるはずです。

また、前歯が5mmのずれで、奥歯がⅡ級である場合、Ⅱ級が治りきらない可能性があります。
上下の歯の本数が同じなら、臼歯関係もⅡ級にすべきですが、下を抜かないので、治せません。
左上1本だけ抜歯したとしても、前歯が接触しない可能性があるということです。
左下が1本少ないから、左上も1本減らそうというのは短絡的で、真っ当なプランとは言えないでしょう。
もちろん、さまざまな条件が揃えば、それがベストプランになるかもしれません。
現段階で上の歯の正中が右にずれているなら、ちょうどよく仕上がるかもしれません。

矯正治療のプランニングは極めて重要であり、患者さんの一生に関わります。
とりあえず並べてみて、出っ歯だからとりあえず1本抜歯というのは行き当たりばったり過ぎです。
土地勘もない見知らぬ土地で地図を持たずに旅をするようなものです。
治療開始前にセファロレントゲンを撮影し、セファロ分析に基づいた治療計画の説明はありましたか?
親知らず抜歯だけでちゃんと治せる具体的な治療方法についての説明はありましたか?
質問文からは、無知無策のいい加減な矯正を施されているような印象を受けます。
このままでは。口の中をいじくられた挙句、お金も時間もかかったのに、
出っ歯も治らず咬み合わせも悪いままで終了にされるかもしれません。

矯正治療というのは、めちゃくちゃ専門性が高く、治療も難しいものであり、
経験不足・知識不足の先生が見よう見まねで出来るようなものではありません。
おそらく適切な説明を受けていないから、不審に思ってここで相談されているのだと思います。
一度、矯正専門の歯科医院などでちゃんとしたセカンドオピニオンを受けられた方がいいと思います。
一般歯科治療ではいい先生でも、矯正治療でいいい先生とは限りません。
まだ始まったばかりで治療が悪い方向に進んでおりませんが、
だらだら非抜歯矯正しても全然出っ歯が治らないでしょうし、
下手に1本抜歯などしてしまうと取り返しがつかなくなるかもしれません。
治療中断・転院などをされるとしたならば、なるべく早いうちに行動した方がいいと思います。