医院名:マロニエ矯正歯科クリニック 
住所:〒340-0034
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矯正コラム

2022.06.01

かみ合わせの改善程度について

質問

現在、矯正歯科で3年ほど、上裏側・下表側のワイヤー矯正中です。上下3本抜歯済み。

1年半ほど、複数回にわたり位置を変えてゴムかけしていますが、下記について改善が見られず、不安を感じています。
・右と左の奥歯の噛み合わせの深さが違う
・上下の前歯が左右対象になっていない(具体的に言うと、正面左は上と下で前歯同士カチカチと接することができるが、右は左より隙間が空いているため、接しない。ただし、下顎はこのとき、自然体の噛み合わせではなく意識的に少し前に付き出している)

医師から毎回かみ合っているかご質問いただくのですが、上記のとおり回答するものの、あとどの程度治療に時間がかかるかなどについてはご説明いただけません。
複数の歯科で精密検査を受け、料金や進め方について納得して矯正を始めましたが、正直本当に3年以上かかるとは思わず、改善するのかしないのか、現状ではそれはわからないのかを知りたいですが、この質問自体が先生に失礼なのではと思い、もやもやしてしまいます。

現在の矯正歯科との相談の仕方や、セカンドオピニオンを受けたほうがよいのかなど、アドバイスいただけると幸いです。

回答

上が裏側、下が表側で通称ハーフリンガルと呼ばれる方法で治療中であり、思ったよりも時間がかかっているとのことですね。
当院でもハーフリンガル、フルリンガルをやっていますが、とにかく難しい治療だと思います。質問者様の気持ちも、担当医の気持ちもよくわかります。

3本抜きをしているということは、先天欠如などがない場合は片方は上下で抜歯し、もう片方は上だけ抜歯をしているということではないでしょうか。片側二級仕上げという方法を選択しているということは、下顎が右か左かどちらかに曲がっていて、治療前の段階で歯の正中や奥歯がずれていた可能性が高いです。
下顎が曲がっている、最初から顔面の非対称という要素がある場合、治療の難易度は上がりますし、現状でかみ合わせが左右非対称になっているのも骨格の歪みが原因と思われます。

矯正において、一番簡単なのはでこぼこやすきっ歯などのスペース問題です。次に簡単なのが、出っ歯や反対咬合などの前後のずれ、その次に難しくなるのが、開咬や過蓋咬合などの上下のずれ。そして、一番難しいのが顎が曲がっている側方のずれです。
出っ歯やでこぼこを治すために、3本抜歯で治療されていると思いますが、実は顔面非対称も含まれていて、質問者様は元々難症例なのだと思います。思った以上に時間がかかり、なかなかかみ合わせが完成しないのも、非対称ゆえではないでしょうか。担当医の実力やもしかしたら誤診・誤算もありえますが、誰が治しても難しいケースはあります。

また、裏側矯正は時間がかかるもの、という説明はすでに受けていると思います。裏側矯正の方が表側矯正よりも優れているのであれば、誰もが裏側矯正を選ぶに決まっています。見た目以外の点で表側矯正に優る点はほぼ無いので、矯正歯科医師側が裏側矯正を勧めることはほとんど無いと思います。
表側に矯正器具をつけたくない、上下裏だと費用もかかるから、ハーフリンガルを選択されたと思います。ご自身が裏側矯正のことばかり調べていたために、世間では裏側矯正が盛んに行われているものと錯覚を起こしてしまいますが、矯正治療全体の1%にも満たない人しか裏側矯正をしていません。それだけマイナーな治療法なのです。
矯正専門歯科医院でしかやっておらず、その矯正専門でも扱っている所の方が少ないです。裏側をやっている矯正歯科医院でも、ほとんどの人が表側矯正をやっています。「集客のため」以外に裏側矯正を扱う矯正歯科医師はいないということです。当院の患者様にも、いかに裏側矯正が大変かを説いた上で、どうしても裏側矯正じゃないと嫌だという人にしかお勧めしていません。

裏側矯正は、費用がかかり、時間もかかり、違和感も強く、喋りにくく、装置も外れやすい、でも目立たない。表側矯正でも抜歯矯正は2年半〜3年程度かかりますが、裏側矯正は+1年ほどかかります。
担当の先生が最初にどの程度時間がかかると説明していたかにもよりますが、もしかしたら質問者様の治療は順調かもしれません。順調に進んでこれだけ時間がかかり、これからも時間がかかるかもしれません。
裏側矯正は、表側矯正よりも仕上がりが悪くなることが比較的多いように思われます。これは、裏側矯正が不適切な治療法ということではなく、治療期間が長すぎて患者さんがギブアップしてしまうからです。今から後2年かかりますと言われたら、大体咬んでいるので、おしまいで良いですと担当医に進言するのではないでしょうか。矯正治療は長くなればなるほど、仕上がりが悪くなります。それは、患者さんが長い治療に耐えられないからです。

さらにいうと、フルリンガルよりもハーフリンガルの方が難しいです。私自身も、裏側矯正をやり始めた時にはハーフリンガルの方が簡単なのではないかと思っていました。上下とも裏だと大変さも2倍だし、下は慣れた表側だからハーフリンガルの方がやりやすいのではないかと。実際は逆でした。
裏側矯正は、セットアップといって最終的な咬み合わせを技工士に作ってもらい、それに合わせて装置をオーダーメイドで作製します。治療費が高額になるのは、この技工料がかなり高いからです。上下裏なら、上下とも咬み合った状態でセットアップが作製されますが、ハーフリンガルの場合は、上しか作られません。下とうまく咬み合うかはよくわからない状態で装置が作製されるのです。
ハーフリンガルは、上は技工士がある程度適当に設定した歯並びに完成され、下は矯正歯科医師がなんとか上に合わせて調整して咬ませて治す、という治療方法です。これが、難しいし、うまくいきません。
そもそも裏側矯正と表側矯正は似て否なるものです。治し方や理想とされる歯並びが違ってきます。上下表側なら咬み合いますし、上下裏側でも咬み合います。ハーフリンガルは、咬み合うように出来ていないので、咬むかどうかはやってみないとわからない、咬まなかったら何とか頑張って治すしかない、という治療なのです。
裏側矯正を扱う先生方と話すと、みんなハーフリンガルはやりたくないと言っています。理由は治しにくいからです。しかし、費用的な問題から患者さんからはハーフリンガルの方が選択されやすいというジレンマがあります。当院の患者さんも、フルリンガルよりもハーフリンガルの方が圧倒的に多いです。

難しい歯並びの質問者様を、難しく治しているのが今の状態です。
という前置きのもと、これからどうするべきかをご説明します。
スペースもほとんどなく、咬み合わせもずれている、ということはワイヤーを調整するか、非対称に対してはゴムを使用するしかありません。ちなみに、裏側矯正は非対称の治療がとても苦手です。
なので、担当医の先生がやっている治療は正しいのではないでしょうか。もちろん、口の中を見ておりませんので、何とも言えません。セカンドオピニオンなどで他の矯正歯科医師に直接見て貰えば治療の穴を指摘されるかもしれません。

現状のまま続けていくことに不安がある、時間がかかるのが嫌だ、ちゃんと咬み合わたい、ということでしたら、違う治療法に切り替えていくことが良いと思われます。
一つは、上も表側につけるということです。前述の通り、ハーフリンガルはシステムが上下で異なるため、治しにくいわけです。なので、確実かつ早く治したいのであれば、上も表側にブラケットをつけましょう。せっかく多くお金を出してハーフリンガルにしたのに、と思うかもしれませんが、ハーフリンガルを続けるよりも簡単になります。
表側につけさせて欲しい、というのは矯正歯科医師側からは言いにくいことなので、質問者様の方から提案すればやってくれるかもしれません。差額がかかるかどうかは医院によって異なると思います。

もう一つは、マウスピース矯正に切り替えることです。
治療の終盤の仕上げは、マウスピース矯正がとても得意とすることです。通院中の歯科医院が取り扱っていれば、の話ですし、インビザラインなどのちゃんとしたマウスピース矯正だったらば、切り替えも良いでしょう。前述のセットアップを上下とも行っていくものですし、何回も作り直しをするので、技術が進化した現在は裏側矯正よりも治しやすい治療法となっていると思います。マウスピース矯正の弱点もありますが、最後の仕上げであればうまくいくはずです。ただ、マウスピース矯正は裏側矯正以上に材料費がかかってしまうため、切り替えとなればある程度費用がかかるものと思います。

当院では、裏側矯正をやったものの、時間がかかりすぎる、仕上がりが良くないという点で、マウスピース矯正に途中から切り替えてもらうケースが多いです。これは、私自身がちゃんと治らないのが許せないということと、質問者様のようにストレスや不安を感じている患者さんを解放するためでもあります。体感でハーフリンガルの人の7割くらいがインビザラインになってしまいました。治療をやっているうちに、「あ、これはうまく治らないな」と感じたら患者さんに提案しています。贖罪の意味もあって、切り替え時に追加費用は頂かないことにしており、利益もかなり減りますが、それも仕方ないものと思ってやっています。
移行費用を取らない歯科医院はかなり少ないものと思いますが、聞いてみてもいいかもしれません。

あとどれくらいで終わるのか、というのはとても気になることかと思いますが、質問する時はご注意ください。「早く終わらせられる」可能性があります。わざと治療期間を伸ばしている矯正歯科医師は一人もいません。
トータルフィーで無い限りは、再診料も発生していると思いますが、医院の利益でいうと微々たるものです。早く患者さんを終わらせて、次の新規患者さんを入れた方がよっぽど儲かるわけです。患者さんはもちろん早く終わらせたいでしょうし、矯正歯科医師も早く終わらせたい、でも早く終わらないのが矯正治療なのです。
そのような状況で、いつ終わるか?という質問は、担当医にプレッシャーを与えます。プレッシャーを与えれば歯の動きが早くなるなら我々も苦労はしません。担当医は、この人は早く終わらせて欲しいと思っている、クレームを言うかもしれない、早く終わらせたい、いまいちでもパッと見で良くなったから終わらせてしまおう、という思考回路になります。
早く終わらせたいと思うと思いますが、あまり担当医にストレスをかけると手抜きで終わらせられるリスクがグッとあがります。我々は毎日いろんな患者に「いつ終わるのか?」「あとどれくらいか?」と聞かれているので、失礼とは思いませんが、担当医の性格によっては早さ重視仕上がり無視にされてしまうかもしれません。いつ終わるかを一番知りたいのは、矯正歯科医師なのです。

長くなってしまいましたが、まとめると、
質問者様の治療は難しい
ハーフリンガルは難しい
担当医のいうことを聞くべきだけれど、不安ならセカンドオピニオンへ行っても良いでしょう
表側矯正やマウスピース矯正への切り替えも有効と思われますが、費用面などは担当医と相談
いつ終わるかを聞いても意味はなく、聞くことのリスクもあります
となります。