質問
抜歯ありの全体矯正をしています。矯正ではセファログラムが大事だというのを最近知りました。
でも、通っている医院は一般歯科で院内に設備がないせいだと思いますが、パノラマレントゲンと模型、普通の顔の写真しか検査で撮りませんでした。
1.治療方針の決定においてセファロ検査をしないことは良識的な矯正治療でも考えられることですか?
経験を積んだ医師でも現場レベルの体感で必須だと感じるものですか?
(担当の矯正医がやっている専門医院ではセファロの検査もしているらしいので必要性は認識されてると思いますが、出張先で担当している矯正患者の多くはセファロは端折られているようです)
2.セファロを見ずに治療を進めることの弊害はどのようなものがありますか?治療計画にどう影響が出るものでしょうか?(抽象的ですみません)
セカンドオピニオンで最初から奥歯を後ろに動かす必要があった(実際はしてない)と言われました。検査で充分に状態を把握してないとリスクがある治療を避ける必要が出て、ベストな治療計画が取れないこともあるのかと気になりました。
回答
セファロ無しで矯正をするのは、エコーを撮らずにお産をするようなものです。
ベストなプランどころか何も不透明な状態で、治療計画を立てているわけですね。
なので、今の治療のゴールは誰もわかりません。ゴールを設定していないわけですから。
かといって、セファロ無しだと絶対に治療が失敗する、とかではありません。
治療計画の核となる、「根拠」が無い状態です。治りはすると思います。
治療計画を立てるときに様々な資料を採取しますが、セファロはその一つです。
色々な歯並びの方がいらっしゃいますが、治療のパターンはある程度限られてくるので、
正直なところ、口の中と横顔だけ見ればおおよその治療方針は考えられます。
いわば、治療計画は料理でいうレシピです。患者さんごとにオーダーメイドで治療レシピを作ります。
レシピの内容が、「砂糖10グラム、オーブンで40分、仕上げにハーブをひとつまみ」なのか
「砂糖だいたい、とりあえず焼く、焦げ目がついたら完成」なのかの違いです。
後者の方だと、美味しくなるかどうかは未知数で、狙った味に出来るでしょうか。勘ですね。
セファロを撮影し、分析することではじめて患者さんの歯並びの状態が数値化されます。
そのレントゲンを土台に、VTOという治療計画を作成し、それに則って治療を進めます。
矯正治療は開始すると、口の中でどのように歯が動くかを観察してもよくわかりません。
なので、最初にちゃんとした設計図を作製し、それ通りに治療することで狙い通りに治療します。
目的地を設定し、ルートをカーナビで設定してから運転すれば、ゴールにたどり着くでしょう。
初めての土地なのに、何も調べずに勘で運転していたら、ゴールに着くでしょうか。
前歯の位置を理想値に設定し、口元も理想的にするにはセファロが不可欠です。
セファロを撮らない先生は、理想的に治らなくていいと思っているわけですね。
では、理想的に治すべきなのか、という話になります。
我々矯正歯科医師が設定している理想値は、単なる平均値であったり、
パット見で綺麗な歯並び・顔立ちだと思った人の数値であったり、
何をもって理想としているのかの根拠に乏しいところもあります。
根拠とするセファロ分析の、根拠が絶対的なものとは言い切れない、ということです。
血圧、血糖値、体重など、基準値や理想値はありますが、それは誰かが決めただけのものです。
矯正歯科医師が治療をする上での拠り所が必要なので、分析しているわけですね。
誰もがセファロが大事と思いつつ、セファロがすべてではないとも思っているわけです。
セファロレントゲンは、通常のレントゲンに専用機械を追加する必要があります。
場所を取るために、狭いレントゲン室には設置できません。セファロを置くなら最初から広くする必要があります。
また、レントゲンの機械の値段も数百万単位で高くなってしまいます。
矯正治療以外で撮影することはありませんから、矯正歯科専門医院には必ずセファロがあります。
セファロの意義を理解せず、軽視している一般歯科の先生は置かない方が多いです。
非常勤として、フリーランスで矯正治療を一般歯科でやっている矯正歯科医師はたくさんいますが、
勤務先によってはセファロが無い、というのはよくあることです。
置いてないなら撮影しなくて良いかと言われれば、もちろん撮影した方がいいです。
一般歯科医院に置いてなければ、置いてあることろに撮影しに行けばいいのです。
私も過去に外勤していた時期もありますが、その際はセファロのある病院まで撮影に行ってもらっていました。
近くの大学病院や、歯科もある総合病院、矯正専門医院に紹介すれば撮影できます。
セファロが医院になくとも撮影する方法jはあるわけで、それを怠っている歯科医院ということです。
矯正歯科医師側が要請しても、雇用主の一般歯科医院院長が必要が無いとなれば、出来ません。
精密な治療計画を立てなくてもいい、と割り切ってしまっているようですね。
私は、大学病院、外勤先、開業後を含めて二千人以上診断していますが、
ただの一度もセファロ無しで治療したことはありません。怖くてできません。
セファロの撮影後、分析し、治療計画を立てるのは時間と手間がかかり、正直なところ面倒です。
一般歯科医師の知り合いで、矯正をかじっている歯科医師がいますが、
セファロを撮った方がいいと言っても、面倒だからと撮影分析をせず、治療を行っています。
ですが、どのような根拠を持って治療に当たるべきか不透明な状況で、治療結果に責任を持てるでしょうか。
自信をもって治療計画を提案するために、私はセファロを撮っていますし、
仮に治療で失敗があったとしても、計画の段階で落ち度ははなかったと証明できます。
治療が失敗したり、患者さんが結果に満足しなかったとき、
「セファロを撮っていなかったからこうなった」となると弁解できません。
矯正歯科医師にとって、セファロは計画の軸であり、専門性であり、自衛手段でもあります。
大量に患者の治療経験があれば、ぱっと見でだいたいプランニング出来ちゃって、
経験で何となくいい感じに治せたりするので、うまくいくかは担当の先生の実力次第だと思います。
ただ、経験でどうにもならないこともあります。
矯正治療は様々な治療リスクと隣り合わせであり、セファロやCTが無いと見抜くことは不可能です。
歯根吸収、歯肉退縮、骨性癒着、歯髄壊死など、歯の寿命を縮める原因をセファロで探します。
治療後に歯や骨がボロボロにならないように、少しでもリスクを回避しようとします。
セファロやCTが無いと見落とす可能性が高く、矯正歯科医師がセファロを撮るもう一つの理由です。
つまり、セファロが無いと誤診してしまう可能性があるということです。
しっかりと検査・分析をしても、どうしても避けられない誤診はありますが、
その可能性を少しでも下げるために、検査・診断をします。他の医療分野も同じです。
誤診してしまう、ベストな治療を提供できないかもしれない、ということに鈍感になっている矯正歯科医師は多いです。
今からセファロを撮影しても、ある程度進んだ治療計画は修正が効きません。
真っ当な矯正の先生にセカンドオピニオンで診てもらって、大丈夫となったなら、心配せずとも大丈夫だと思います。
昨今は、マウスピース矯正などで口の中をスキャンしただけで検査といい、
セファロ分析などをせずに診断したと言って診断料を取っている歯科医院も増加しています。
治療を失敗したくない先生はセファロを撮ってプランニングをするでしょう。
失敗してもいい、失敗を失敗と思わない先生は面倒なセファロ分析などしないでしょう。
本当は、すべての矯正治療に関してセファロ分析が義務付けられるくらいがいいと思いますが、
現状はなかなかそうもいかないです。セファロを撮るかどうかは歯科医師の裁量次第となっています。
質問者様は、治療が始まってから色々と知ってしまい、不安に思うこともあると思います。
担当医が上手なら、セファロが無くてもちゃんと治りますし、
上手でなければセファロを撮っていてもちゃんと治らないと思います。
あくまで、セファロというのは検査のひとつであり、矯正歯科医師の実力とは直結しません。
健全で審美的な咬み合わせに仕上がってくれることを祈っております。