質問
現在上下のワイヤー矯正を行ってからもうすぐで3年になります。
前回治療時に、前歯で麺類が噛みきれない事と、左の噛み合せが違和感があると伝えたところ、三角形にゴム掛けをするよう言われました。それから一日半で、右の噛み合わせがおかしくなり(本来噛み合うべき場所に隙間が出て歯が全体で噛み合っていない)、左は特に動きはありません。このまま一生噛み合わないのかと不安になります。
割り箸を口にくわえて噛み合わせをセルフチェックしましたが、左が少し上がっていて水平ではありません。
よく見ると歯並びも右に比べると左があがっています。。
つまり、歯の高さが揃っていません。
噛み合わせも右と左で噛み合っている位置が違うのですが、正しい噛み合わせは内側(舌でなぞった時)下の歯に上の歯が外側にズレて噛み合っているのか、ズレずに上下噛み合っているのかどちらが正しい噛み合わせなのでしょうか。私の場合、右側はズレずに上下噛み合っていて、左側は下の歯に上の歯が外側にずれて噛み合っている状態です。
回答
まず、約三年ほど治療を行っていますが、まだ治療としては完了しておりませんので今後良くなっていくはずです。
そして、矯正治療途中の咬み合わせは決して良い咬み合わせではありません。
気になっていらっしゃることの原因はすべて、「生まれつきの顔面非対称」に起因します。
「割り箸を咬んで~」ということですが、これは上下顎骨の傾きを調べるときに我々も行います。
水平でなく左上がりということは、上下顎が左偏しているという状態です。
矯正治療により、上下の顎の傾きが悪くなることもなければ、良くなることもありません。
つまり、質問者様は矯正治療前から顎が曲がっているのです。
鏡で真正面から自分の顔を見てみましょう。顎の先端が左側に曲がっていませんか?
口を閉じているときの左右の口角を結んだ直線も、目と目を繋いだ直線と平行ではないでしょう。
顔を半分隠してみましょう。左右の輪郭や人相が対称的ではないと思います。
左右のエラ(下顎角)を触ってみましょう。上下的位置や前後的位置が同じではないでしょう。
正面からのレントゲンを撮れば確実ですが、質問者様は顔が曲がっています。
人間は、そもそも左右対称に出来ていません。心臓も左にあれば、利き手もあります。
動物や植物を見ても、完全に左右対称な存在などはないはずです。
そもそも対称に作られていないからです。左ヒラメに右カレイもちゃんと生きています。
生き物である以上、左右対称である必要はないのです。
また、質問者様が顎が曲がっているということを、周りの人は認識できていないと思います。
人間が、顔面を正面から捉えるのは、鏡で自分の顔を見た時と、証明写真の時だけです。
質問者様が誰かと話をしたりするときも、真正面から対面で話すことはないはずです。
つまり、顎が曲がっていることを気にしているのは、自分しかいないということです。
顎が曲がっていても問題ない、他人は気にしていない、と言われても、
やはりご本人がコンプレックスに感じているのであれば、顎の曲がりを改善しても良いかもしれません。
骨自体が最初から曲がっているわけで、顎の非対称を改善するためには、骨を動かす必要があります。
つまり、顎の骨を移動させる外科手術でないと改善されないということです。
上下とも曲がっている可能性が高いので、上下セットの手術になると思われます。
外科的矯正治療は保険適応になりますが、今通院中の歯科医院が申請を出しているかはわかりません。
骨を切ってまで顔面非対称を治したいのであれば、矯正担当の先生に相談すると良いでしょう。
歯並びが(おそらく上の前歯の先端を連ねた直線)が左上がりになっているということですが、
これも顎が最初から曲がっていることが原因で、手術以外の方法で治すことは不可能です。
「治療前は曲がっていなかった」と思われるかもしれませんが、
歯ならびが崩れていてわかりにくくなっていたのです。
歯並びが整い、上の歯並びが上顎にとって良い位置、
下の歯並びが下顎にとって良い位置になったことで、生来の非対称が顕在化してきたのです。
もし、治療前の写真があればご確認ください。最初から曲がっているはずです。
『顎が曲がっているのが気になる。』と患者様に言われた場合、
我々は「曲がっていっても問題ないから気にしなくて大丈夫ですよ」と答えるか、
「骨ごと治さないといけないので、手術をすることになりますよ」と答えるしかありません。
矯正歯科医師は固定された顎の中で歯だけを動かしているのであり、骨を動かすことはできないからです。
見た目だけの問題であるならば、顎が曲がっていても問題ないと言えるのですが、
咬み合わせがずれているとなると、健康上、矯正治療としては問題があります。
現状、うまく咬みあっておりませんが、これも顔面非対称が原因と思われます。
前述のように、上の歯並びは上顎に、下の歯並びは下顎に適切な位置にあるはずです。
顎が曲がっていなければすんなり咬んでいたわけですが、顎が曲がっているから咬まないのです。
手術をしないで咬み合わせを改善するなら、矯正治療でなんとか歯を動かしていくことになります。
歯は本来それぞれ所属する顎の中で適切な位置に居たいので、
曲がった顎同士で歯を咬ませようとするのは難易度が高くなります。
歯が動きたくない方向に動かすことになるからです。
正しい咬み合わせですが、前歯も奥歯も、必ず下の歯よりも上の歯が外側に来て覆い被さります。
上の歯がやや外側に来ているのが正解なので、質問文の内容からすると左側の方が正しいかもしれません。
左右の奥歯の重なりが違う、ということは上下の顎の幅も合っていない可能性があります。
おそらく、前歯も出っ歯か反対咬合になっている、上下の歯の正中も合っていないなど、
咬み合わせとしては全然うまく咬めていない状態なのではないでしょうか。
正常咬合では、咬んだ時に前歯も奥歯もすべて同時に接触するはずですが、まだそこまでに至っていないようです。
今の咬み合わせから、ある程度咬める咬み合わせに持っていくには、かなりの時間と労力を要すると思います。
骨格的に非対称で、咬み合わせが側方にずれて咬みあっていないとしたとき、
治療方法は「顎間ゴムを使いまくる」以外にありません。
今質問者様の歯についているマルチブラケット装置は、上下で別々になっているはずです。
これは、上の歯は上の歯だけで並ばせる、下の歯は下の歯だけで並ばせるようになっていて、
上下の咬み合わせを良くすることはワイヤー調整ではできません。
軽度のずれであればワイヤーを調整するだけで改善されますが、骨格性の重度のずれは治せません。
つまり、上下の顎を引っ張り合う顎間ゴムでしか改善できないということです。
指示されたゴムかけを行ったら咬み合わせがおかしくなったということですが、そういうものです。
最終的に良い咬み合わせまで歯を動かしていく過程で、どんどん咬み合わせは変化していきます。
現在の咬み合わせは、顎が曲がっているなりにまあまあ咬んでいる、という状態ですから、
今の位置から動かしていくとなると、今よりもうまく咬みあわない時期もあると思います。
なので、これは担当医を信頼し、指定したとおりにゴムを使い続けましょう。
ゴムを使いまくると言いましたが、これは大げさではなく、
「複数のゴムを毎日欠かさず20時間以上使用するのを長期間継続する」という意味です。
質問者様の文章から察するに、まだまだ咬み合わせは悪い状態で、
ここからの治療はゴム以外で改善できない状況になると思われます。
歯並び全体をかなりの距離移動させる、歯が動きたくない方向に移動させるという点で、
長期間かつ複数のゴムの使用が必要と思われます。
また、ゴムの効果は食事・歯磨き以外の間かけつづけることで発揮されます。
使用時間が減ると、効果も激減します。ゴムをかけていない間に戻ってしまうからです。
20時間使用すれば4時間しか戻りませんが、12時間使用では12時間も戻ってしまうのです。
これまで3年もの間治療を行ってきましたが、ここからがまだ長くなると思われます。
そして、治療結果は本人の努力によってしか達成できないことになります。
酷なことを言うようですが、質問者様が頑張らなければ咬み合わせが治らないということです。
矯正治療において、顔面非対称は最も難しいケースとなります。完全に治せないことも多いです。
前述のように、我々が使用するマルチブラケット装置は構造的に
顎内での治療には向いていますが、顎間の治療は向いておりません。
顎間で歯を動かす方法は、手術で骨ごと動かすか、顎間ゴムで引っ張って改善するしかありません。
顎間ゴムについては、患者さんの努力100%依存となり、ゴムを使ってくれない場合には治療が詰むのです。
3年もの間治療を行い、普通であればそろそろ矯正治療が終了になってもおかしくない期間だと思います。
その中で、顎が曲がっていることに気づき、咬み合わせも合っていない点に不安を感じているのも無理はありません。
ですが、顔面非対称は最初からずれているので、矯正治療のせいでずれたわけではありません。
また、顔面非対称による交叉咬合は、ワイヤー調整と顎間ゴムの長期使用でしか改善されません。
矯正治療や矯正担当医師に疑念をもつこともあるかもしれんが、誰が治療しても質問者様は難症例であったと思います。
完璧な歯並び咬み合わせとならずとも、ある程度咬みあっていれば大丈夫です。
どの程度まで頑張って咬み合わせを良くしていくべきかは、担当医と話し合ってゴールを決めると良いと思います。
以上で、ご質問への回答とさせていただきます。
追加でまたご質問があれば、ご質問いただければお答えいたします。よろしくお願いします。