時々、患者さんから聞かれることがあります。
「先生は、どうして歯医者さんになったんですか?」
歯医者という仕事はどちらかというとマニアックな専門職です。
特別理由もなく、なんとなくで選ぶ人はいない職種でしょう。
実は、歯科大学の学生の8割が親が医者・歯医者なのです。
なので多くの人の志望理由は「親の跡を継ぐため」でしょう。
母校の東京歯科大学は日本で最も歴史の古い大学ですので、
4代目やら5代目やらの歯医者一族の末裔の方も少なくありませんでした。
さて、親が美容師の歯医者1代目の私はどうして歯医者の道を志したのでしょうか。
大層なものでもありませんが、恥ずかしげもなく白状すると、
僕が歯医者になった理由は『直感』です!
松田聖子の言葉を借りると「ビビビときた」ですね。
今回は私の昔話。
時を遡ること十数年。
高校3年生の私は文系大学を目指す受験生でした。
国立志望ではあったので理系もかじってはいましたが、理系の「り」の字もありません。
だいたい、文系であったのも現代文が好きだからという単純なもの。
海城高校という都内の進学校に入ってしまったので、右へならえで有名校を目指す空気感。
昔の記憶は曖昧で、なんとなくで生きていた私は流されるまま勉強していました。
同級生も頑張っているし、先生が良い大学へ入れ入れと言うので良い大学を志望するのですが、
いつも何学部を書いて良いのか悩んでいました。適当に社会学部とかにしてたかな。
大学に行ってやりたいことがない。
大学に行った後でなりたい職業がない。
17年生きてきて、夢に出会えなかった私はとりあえずの受験生活でした。
私以外の人もそうなのかもしれません。大学に行ってから考えればいいかと。
危機感に背中は押されるものの、前向きな気持ちでは勉強していませんでした。
そんなある日、父が突然「歯医者になれ」と私に言ったのです。
どうやら、近所の歯医者に行ったら感じが良かったらしい。
普通なら聞き流すところでしょう、「俺文系だけど?」と。
しかし、その時の私には電撃が走りました。
ビビビ。
何アンペアもない微弱な電流は、私の脳裏にイメージを沸き起こします。
歯医者になっている自分の姿。
あ、歯医者向いてるかも?
ただそれだけです。
栗田家のデンタルIQが低かったこともあり、小さい頃から歯が悪く、
よく歯医者には通っていました。
別段、その時に歯医者に憧れを抱いていたわけではありませんが、
歯医者は身近な存在であったわけです。
細かい作業をして、人助けをして、あまり動かない。
そんな歯医者のイメージは私にフィットしました。
「きっと自分は歯医者に向いているに違いない」
そう確信した私はその日から、理転(文系から理系に転ずること)しました。
ちょうど今と同じ6月ごろでしたから、そんなに時間も無いだろうということで
ギアを上げての猛勉強をした記憶があります。
担任の先生には茨の道だからやめた方が良いと言われましたが、
やりたいことが見つかってしまったのです。
文系のクラスで僕だけ理系なのは少々気まずいものでした。
なんやかんやで東京歯科大学に合格し、
晴れて歯医者の道の第一歩を踏み出したわけです。
6年間の学生生活は楽しいものでした。
歯の勉強は面白いし、歯を削ったりの実習も楽しいし。
あの時の決断は間違いじゃなかったなーと思っていました。
でも、みんながみんな学生生活が楽しいわけではなかったようです。
「親が歯医者だから」他の選択肢が無かった人
「医学部落ちたから」仕方なく歯学部に来た人
歯医者になりたくないと言いながら過ごす学生のなんと多いことか。
自分から進んで歯学部に来た私はレアな存在で、
大多数の学生さんは致し方なく歯医者になる現状。
なんだか昔の自分を見ているかのよう。
自分の道を自分で選べた私は幸せだったんだと感じました。
楽しい学生生活が終わり、国家試験を通り、歯医者になりました。
学生の頃を忘れてしまうくらい楽しい歯医者生活。
細かい作業をして、人助けをして、あまり動かない。
やっぱり向いている。天職といえるかも。
歯医者になって数年経ちますが、未だに毎日仕事が楽しいです。
高校3年生の少年よ、君の直感は正しかったよ。
願わくば、歯医者になることを嘆いていた人達にも
電撃が走っているといいなと思います。
私が歯医者になった理由、それは「直感」です。
皆さんも、大事な決断は自分の直感を信じてみては。
また今度、「矯正歯科医になった理由」についてお話出来ればと思います。