矯正治療症例:抜歯矯正
矯正治療=抜歯するものと思っている方も多いのではないでしょうか?
抜歯した方が良い患者さんもいれば、抜歯しない方が良い患者さんもいます。どんな治療プランになるかは適切な検査・診断と、適切な説明によって導き出されます。
でこぼこが強い、出っ歯を引っ込めたい場合は抜歯矯正の方が仕上がりが良いことが多いです。
主訴 | 歯並びがでこぼこしているのが気になる |
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診断 | 叢生 |
年齢 | 21歳(初診時) |
治療装置 | マルチブラケット装置、ナンスのホールディングアーチ |
使用装置 | クリアティウルトラ(.022) |
使用ワイヤー | ナノホワイトワイヤー |
保定装置 | 犬歯間保定装置+ベッグタイプリテーナー(夜間のみ) |
治療期間 | 2年10ヶ月 |
治療費用 | 810,000円(税込) |
治療リスク | 咬合時痛、歯肉退縮、歯根吸収、歯髄壊死、後戻り |
歯並びのでこぼこが気になるという患者さん。でこぼこの度合いも強く、口も閉じにくいため、抜歯矯正を行うこととしました。非抜歯ではかなり前歯を前に出さざるを得ないからです。
抜歯部位は上下左右の第一小臼歯です。前から数えて4番目の歯を4本抜いて治療するのが最もポピュラーな抜歯矯正となります。
歯の本数や奥歯のずれ、歯の状態などから抜歯本数や抜歯場所は異なりますので、どんなケースも4番4本というわけではありません。今回はオーソドックスなケースなので、セオリー通りとなります。
抜歯スペースを閉じていく際に、綱引きのように前歯と奥歯で引っ張りあっていきます。前歯も後退しますが、反作用で奥歯が前に移動してしまいます。治療上、上の奥歯を動かしたくない時は、追加装置を装着して奥歯の前方移動を防止します。これを「加強固定」と言います。今回は、ナンスのホールディングアーチを選択しました。上顎の内側に装着され、左右の奥歯をワイヤーで繋ぎつつ、前方部にプラスチックのボタンがつき、奥歯の前方移動を防止します。
ナンスのホールディングアーチを装着したら、第一小臼歯を4本抜歯します。その後、着けられるところから順番にブラケットを装着します。
でこぼこが強かったり、歯が捻れていたりすると、ベストポジションにブラケットがつけられなかったりします。
こういう時は、一度ベストポジションでない場所にブラケットをつけ、歯並びが整ってきたら再度ベストポジションにブラケットを付け直すようにします。
僕は「プラスチックアタッチメント」という小さな仮のボタンが好きなので、でこぼこの強い場所にはプラスチックアタッチメントを装着します。
細いワイヤーから太いワイヤーに交換していき、だんだんとでこぼこを治していきます。途中でプラスチックアタッチメントを本来のブラケットに付け直します。でこぼこが強い患者さんは、でこぼこを治しきったタイミングでほとんどスペースが残っていないことが多く、意外に早く治ることがあります。
でこぼこを治すのは形状記憶ワイヤーのニッケルチタンワイヤーの役目です。でこぼこを治した後のスペースを閉鎖するのは、ステンレススチールワイヤーの役目です。最後のワイヤーであるステンレスワイヤーになったら、残ったスペースを閉じていきます。
まず犬歯(3番目の歯)を後ろに下げ、その後で前歯を後ろに下げていきます。
スペースを閉鎖していく過程で、奥歯を抑えておく必要がないと判断されたら、ナンスのホールディングアーチを取り除きます。
スペースが閉じ切る頃に、歯と歯の間を少し削るディスキングを行いました。少しでもスペースを獲得するのが目的ですが、ブラックトライアングルを消滅させるのも目的の一つです。
矯正治療を行うと、ほとんどのケースで歯肉退縮が起こり、歯と歯の間に三角形の空間が生じます。口の中は暗いので、黒い三角形「ブラックトライアングル」と読んでいます。
歯が三角形であるが故に空間が生まれるので、ディスキングによって歯を四角くすると空間を消滅させることが出来ます。削る量は歯にとって問題ない範囲に留めます。
最終的に最大面積で上下の歯を咬み合わせるため、仕上げの段階でブラケットを付け直します。
最後の微調整のとき、ワイヤーを曲げて治療する先生が多いと思いますが、当院はブラケットの付け直しで対処しています。
仕上げで申し分ない咬み合わせになったら、矯正治療が終了となります。
治療後は歯並びを維持するため、リテーナーを使用していただきます。今回は歯の裏に接着する犬歯間保定装置(フィックスタイプリテーナー)と、全体的にカバーする取り外し式のベッグタイプリテーナーを併用します。
いかがだったでしょうか?治療前と比べると見た目も咬み合わせも改善されました。やや歯の正中がずれていますが、本人的にも問題ないとのことで終了としました。とても満足していただけました。